愛のサラリーマン

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ソフトバンクグループ決算説明会を深掘る ~ AIは人の何を代替するのか ~

 

すでに旬は過ぎ去っているものと思われるが、2019年2月7日に『ソフトバンクグループ 2019年3月期 第3四半期 決算説明会』が開催されたので、それに関連する記事を書く。

 

この会は前半で主に持ち株会社としてのソフトバンクグループの財務に関する考え方の説明、後半でソフトバンクグループのビジョンについての孫氏の考え、というように構成されている。

 

今回は後半部分(下記動画の00:57:30辺りから)についてフォーカスを当て、孫氏の語ったことを少し深掘りしてみようと思う。

 

youtu.be

(※ 公式動画がスマホで再生されなかったため、Youtubeから拝借しました。)

公式動画はこちら

 

後半部分の要約

100兆規模の巨大ファンドを運用する孫氏の根幹にあるビジョン、あるいは信仰をこの会の後半部分で垣間見ることができる。

 

しかも、孫氏のビジョンは後半開始からわずか約10分間に凝縮されている。

 

ソフトバンクは創業以来唯一つのことを毎日変わりなくやってきた会社である。そのたった一つのこととは『情報革命』である。

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01:02:32頃 ソフトバンクの歴史について


情報革命という何百年かに1回かの革命の中で、その革命の中でも10年に1回くらいの感覚で、パラダイムシフトの階段が着実に上ってきている。

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01:03:05頃から 情報革命とその中のパラダイムシフトについて 

 

我々は情報革命の中で、PCからスマートフォンまでのパラダイムシフトを経てきている。そしてその中で最も大きなパラダイムシフトが、まさに今出現してきていると考えている。それが『AI革命』である。 

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01:03:49頃 最も大きなパラダイムシフト「AI革命」


T型フォードが発売されてから5年で、馬車が9割を占めていたニューヨーク5番街の道のほとんどを自動車が占めるようになった。

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01:04:10頃から 「AI革命とはどういうことか?」 

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01:08:35頃 5年でこれだけ変わる。

 

AIによる自動運転の車が99台で、人が運転する車が1台。そうなると私は想っています。想うということがビジョンです。

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01:09:19頃  ビジョンについて

 

『AI自動車のほうが事故を起こさない!だからそちらに移るのだ!』私は間違いなくそうなると断言できるわけです。そう信じているわけです。そういうビジョンを持っているわけです。それを持って我々は投資をするのです。 

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01:10:21頃  ビジョン型の投資

 


 

さて、ここまでが孫氏のビジョンの肝である。

今回はこのプレゼンテーションの中の、情報革命の中でいくつかあったと孫氏が紹介している各パラダイムシフトについて、少し深掘りしてみよう。

 

PCは何をしたのか?

PCはそもそもコンピューターである。コンピューターは端的に言ってしまえば、データを処理する機械である。

 

人間もデータを処理することはできる。紙に数字を書いて計算することで数字というデータを処理することができる。

 

しかしご存知の通り、コンピューターはこの処理を人間よりも高速に実行することができる。

 

またコンピューターの優れた点は、応用範囲が広いということだ。

あるデータが与えられた際に、人間が定義できる範囲内であれば、およそどんなことでも与えられたデータを処理することができる。

 

この処理はプログラムによって行われる。コンピューターはパッケージ化されたプログラムを、自身のデータ容量の許す限りインストールし、実行することができるのだ。

 

やや抽象的に表現すると、コンピューターとは『特定のデータをインプットとして、コンピューターにインストールされたプログラムで処理を行い、処理されたデータをアウトプットする機械』だ。

 

PCの発明により、それまで大企業しか所有し得なかったデータ処理装置が一般家庭に普及した。

 

これにより、個人レベルでもデータ処理が高速化にできるようになっただけでなく、個人でも好きなデータを好きなように処理できるプログラムが組めるようになった。

 

処理できるデータさえあれば、その変換方法(プログラム)は自由自在である。

 

人々はこうしたコンピューターの力を得て、様々な革新的なプログラムを生み出した(私はその中でも特にExcelが革新的だと思っている)。そしてより任意のデータを、より高速に処理する能力を得た。

 

インターネットは何を可能にしたのか?

さてPCはデータ処理能力を普及させることで、我々のような個人でもデータ処理能力を持つことを可能にした。

 

ではインターネットは何をしたのだろうか?

 

インターネットが可能にしたものは、物理的に遠く離れたコンピューター同士の会話である。

 

コンピューター同士の会話は「リクエスト(依頼)」によって行われる。コンピュータはお互いにリクエストを送り合うことで会話している。

 

でも一体コンピューターは、別のコンピューターに何をリクエストするのか?

 

それは別のコンピューターが保有するデータベースに対する以下4つの処理である。

  • データベース内に新しいデータを作成する (Create)
  • データベース内の特定のデータを読み込む、または取得する (Read)
  • データベース内の特定のデータを別のデータで上書き更新する (Update)
  • データベース内の特定のデータを削除する (Delete)

これらの基本操作をそれぞれの頭文字を取ってCRUDと呼ぶ。

 

インターネットにより、あるコンピューターは別のコンピューターに対して(許可されている範囲内で)これら4つの操作を「リクエスト」することができるようになった。

 

Twitterでつぶやきを投稿すれば、それはTwitter社が管理しているコンピューター内に存在するデータベースに対し、あなたが投稿した文字列を新しいデータとして「作成(Craete)」するリクエストをしているのである。

※ ちなみに、リクエストする側のコンピューターを「クライアント」、リクエストを「サーバー」と呼ぶ。

 

この能力により、プログラムをわざわざ自分のコンピューターにインストールする必要がなくなった。さらに、インターネットに接続されたコンピュータであれば一般的に公開されているコンピューターの機能を誰でも使えるようになった。

 

私は自分のPCから、あるプログラムが既にインストールされている別のコンピューターに、インターネットを通じてリクエストを行うことで、ある特定の目的のために作られたデータの処理(プログラム)を使うことができる。それは私だけでなく、インターネットに繋がったコンピューターを持っている人間であれば、誰でも可能なことである。

 

PCが物理的なコンピューター(ハードウェア)を普及させたのに対し、インターネットはプログラム(ソフトウェア)を普及させたと言える。クラウドコンピューティングである。

 

スマートフォンは何をしたか?

スマートフォンは手の中に、ポケットの中に収まるコンピューターである。

これにより、コンピューターを利用できる物理的なシーンの制約を取っ払うことになった。

 

この小型化による物理的な制約の撤去は、スマートフォンだけでなく、IoTと呼ばれる動きからも見て取れる。

 

昔はコンピューターは大きなものであった。Wikipediaによると、世界初のメインフレームは1951年のUNIVAC I (UNIVersal Automatic Computer I)とされる。

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The UNIVAC I SYSTEM (1951)

物理的な観点におけるコンピューターは、PC、スマートフォン、IoTという流れに象徴されながら、現在進行系で小型化され続けている。今後もこの小型化の流れは続くだろう。

 

2018年に公開されたこの記事によるとIBMブロックチェーン技術と通信モジュールが搭載された1mm x 1mmの世界最小コンピューターを開発中とのこと(しかも、1台10セントほどで売ることを考えているらしい)。たった70年程で凄まじい進歩である。

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でかいやつじゃなくて、赤い矢印のところのちっちゃいのが1mm x 1mm

 

では、AIは何を可能にするのか?

AIはコンピューターの小型化の話ではない。

 

またAIは、インターネットが行ったような、コンピューター同士の会話に関する話ではない。

 

AIはプログラムの進化の話である。

 

今までのプログラムは「データを変換する」処理のことだった。これによって、人間はデータ処理能力を向上させた。人力でやっていたデータ処理はコンピューター上のプログラムによって代替された。

 

確かに、この流れも止まらないだろう。毎年いくつものベンチャー企業が生まれ、コンピュータによって特定の「データ処理」を代替するプロダクトをリリースしている。

しかし、これらのプログラムはあくまで「仕事の実行」を部分的に肩代わりしているに過ぎなかった。

 

これからのプログラムは、AIによってデータ処理、仕事の実行を代替するのではなく、人間の判断(意思決定)を代替するものだ。

 

人の行動は「決めること(意思決定)」と、「決めたことを実行すること」のみで成り立っているわけだから、このインパクトはでかい。

 

データ処理は人の行動の「実行」の一部を人間から代替し、今も実行を代替する範囲を拡大中である。たが、AIは人の行動の「意思決定」を人間から代替する。

 

なぜそれが可能か?

 

それは孫氏も言っているように、AIの方が良いからである。 

 

人間が走行ルートを判断するよりも、AIがやった方が事故が少ない。良い!

 

人間が投資判断をするよりも、AIがやった方が儲かるしリスクも少ない。良い!

 

人間がクレジットカードの不正利用を判断するよりも、AIがやった方が確実。良い!

 

人間がおすすめのコンテンツを提案するよりも、AIがやった方が精度が高い。良い! 

 

ということなのだ。

 


 

 ここまででPCからAIまでの流れを見てきたが、以下の3つの時代の潮流があるように思う。

 

  • コンピュータの物理的な小型化の流れ
  • データ処理の適用範囲の拡大の流れ
  • AIによる判断のリプレイスの流れ

 

孫氏は100兆ものファンドを組んで、AIによる人の判断のリプレイスを大きく前進させようとしている。そうしたビジネス判断、投資判断をしているのは、プレゼンテーションで孫氏が述べていたように、彼のビジョン、あるいは信念である。

  

実は、判断の前には人間の意思、信念、ビジョンが存在している。人間は「こうしたい」「こうした世界が良い」「世界はこうなる」というビジョンがあって初めて重要な物事に関する意思決定するのである。

 

現状のAIが判断しようとしているのは、あくまで機械的な、言い方によっては些末な判断である。(それでもビジネス的なインパクトは十分すぎるほどあるが...)

 

しかし私は今後、AIが人間の意思やビジョン、信念といったことまで代替するようになったら、どうなるのだろうかと妄想してしまう。

 

そこまでいくと、孫氏が行っている「ビジョンファンド」もAIが思いつき、実行することも可能になるかもしれない。そんなことは実現しないという意見もあるかもしれない。

 

しかし仮にそうなった時、人の存在理由として何を拠り所とすれば良いのだろうか?