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【書評】このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法(著者: 北野唯我)

参考になった本があったので紹介する。 

 

このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

 

 

とある印刷機器を販売する会社で法人営業を専門とする青野(30)が、転職コンサルタント黒岩のコンサルティングを受け、転職を進めていくお話。

物語調で進行するのでサラッと読めた。

 

著者の北野唯我氏は株式会社ワンキャリア執行役員(執筆時点)。

 

気になった部分について考察してみる。

  


 

人材のマーケットバリュー

青野が黒岩の転職コンサルティングサービス(50万円)の契約を済ませたところから黒岩のレッスンが始まる。

「よし、質問を変えよう。君の給料はなぜ発生する?」

 

── 中略

 

「給料は、君が『自分』という商品を会社に売り、会社がそれを買うから発生している。あくまで売り込んでいるのは君なんだ。君はたまたま今の会社を選んだだけで、会社は君をたまたま買っている。つまり、雇用とはひとつの『取引』なんだよ。マーケットバリューを理解するには、まず自分を商品として考えることだ」

 

まずは前提の確認。

自分は商品なので、その商品を会社が(法律の範囲内で)どう使おうが勝手である。

商品の運用方針は社長の思想が色濃く反映される。(そもそも「思想」を持っていない社長も多いが...)

 

「マーケットバリューは①技術資産、②人的資産、③業界の生産性の三つで決まる。」

 

「キャリアとは20代は専門性、30代は経験、40代は人脈が重要なんだ。」

 

補足すると「技術資産」は専門性と経験に分けられる。

専門性とはエンジニアリングや営業、マーケティング、人事等、職種で得られる技術のことである。経験とは「職種に紐付かない技術」のことで、例えば

 

  • 子会社の経営
  • 事業部長の経験
  • 営業部門の立ち上げの経験
  • マネジメント経験
  • リーダーの経験

 

のことを指す。

 

また、人的資産とは人脈(= 自分が会社を変えたとしても仕事をくれる人間)のこと。

 

著者は

「専門性は学べば誰でも身に着けられるが、年をとるほど差別化しづらくなる。一方で経験は汎用化されにくい。よって20代は専門性、30代は経験で勝負すべきだ。」

としている。

 

また、40代になると人脈が重要になってくるということも言っている。

 

専門性で上に突き抜けるためには、生まれ持った才能やセンス、若い時の環境に大きく影響を受ける。

 

また上になればなるほど熾烈な競争になる。よって我々のような凡人はレアで価値のある経験を積み上げ、経験で勝負することが必要になる。

 

レアで価値のある経験をするためには、専門性がなければそもそも任せてもらえない(論理性やコミュニケーション能力がある前提)。

 

しかし経験上30名ほどのスタートアップ企業においては、論理性とコミュニケーション能力があれば専門性がなくともレアで価値のある経験を積めると思う。

 

(しかし成果を出すためには短期間で専門性を身につけ、大量の試行錯誤を積み重ねる必要がある)

 

業界の生産性と仕事の賞味期限 

「商品としての自分」のマーケットバリュー(≒ 給料)は技術資産、人的資産の他に業界の生産性によっても決まる。

「伸びている産業で働くというのは、たとえるなら、上りのエスカレーターに乗って、上を目指しているようなものだ。とくに自分が何もしなくても、売上が1.5倍になったりするわけだからな。一方で、縮小している産業で働くのは悲惨だ。何もしなければ、売上が0.8倍になる。それを必死に防ぐために、下りのエスカレーターを速いスピードで逆向きに駆け上がらないといけないからな。」

 

「つまり、君のような人間、技術資産も人的資産もない人が会社を選ぶ際は実質二択だ。ひとつは①生産性がすでに高い産業。もうひとつは②エスカレーターが上を向いている産業だ。反対に絶対にダメな選択肢は、生産性が低くて、かつ、成長が見込めない産業で働くことだ。永久に豊かにならないからな。」

 

出版業界やブライダル業界などはまさに下り坂のエレベーターである。一方でネット広告業界、医療ヘルスケア業界等は上り坂だ。

 

下り坂の業界で働くと、特に営業、マーケティング、商品開発(エンジニアリング含む)などのプロフィットセンター部門は非常にシビアな目標やタイトなスケジュールを課せられ、毎日大きなプレッシャーを受けながら働くことを覚悟しなければならない。

 

「すべての仕事には明確に賞味期限がある。具体的にまず、①ニッチと言われる『イスの数は少ないが、替えが効かない仕事』から始まり、順番に②③に移行し、最後は④『イスも少なく、誰でもできる仕事』として消滅していく。これが仕事の『賞味期限』が切れる構造だ。」

 

ちなみに「イスの数」というのはそのポジションにおける「雇用の数」である。

この本では具体例がなかったので推察する。

 

例えば創業間もないベンチャー企業における営業の場合、最初は数名の営業マンがプロダクトを売ることで経営者は儲かることに気付き、営業をつづけることで企業は成長していく。これが①のニッチフェーズ(書籍内の言葉)。

 

儲かることに気づいた経営者は営業マンをもっと採用しようとする。これが②のスターフェーズ(書籍内の言葉)。

このフェーズでは各営業メンバーが独自のやり方でやっているが、その中のメンバーの誰か、もしくは外部から新しく雇い入れた営業のマネージャークラスの人間が営業業務の型化を行い、誰でもすぐに売れるような営業システムや教育システムを組み上げる。

 

型化が成功すると、もはやスキルの高い営業マンを雇う必要はなく、スキルが無くても低コストの人材を大量に採用し、型にはめることで生産性を上げようとする。これが③のルーティンワークフェーズ(書籍内の言葉)。

 

さらに自動化、機械化できる仕事は徹底的にシステム化され、不要になった仕事消滅する。これが④の消滅フェーズ(書籍内の言葉)である。

 

先程の「レアで価値のある経験」にあたる仕事は、スターフェーズにおける型化、システム化の業務だろう。

 

経営者にとっては事業が儲かることがわかったタイミングで拡大と合理化が同時に行える人材は貴重だ。特にスタートアップのようなキャッシュが極端に限られており、急速な成長が求められる企業においては尚更である。

 

また、こうした業務は大抵のケースにおいてマネジメントを経験することにもなる。よって将来の部長候補に自然と道が開かれるため非常に魅力的な機会である。

 

しかしスターフェーズにおいては、マネージャー経験を求める従業員が相当数採用されるので、彼らとの競争に勝たなければならない。

 

社長がコミュニケーション重視型なのか、成果重視型なのか、安全運転重視型なのか、(他にもあるかもしれないが)見極めた上で仕事のアプローチ方法を考えよう。

 

まぁ、負けたとしてもスターフェーズにおける経験は積めるから、次の会社ではそこで得た経験を売り込みマネージャーになれる確率は高まるだろう。

 

この辺は運もあるが、転職の時には確認してから入るようにしたい。

 

組織のあれこれ 

「いいか。組織にいると、給与は当たり前のようにもらえるものと勘違いする。そして大きな会社にいる人間ほど、実力以上の給与をもらっていることが多い。その中の多くの人間は、会社が潰れそうになったり、不満があると、すぐに社長や上の人間のせいにする。だがな、勘違いするんじゃない。君が乗っている船は、そもそも社長や先代がゼロから作った船なんだ。他の誰かが作った船に後から乗り込んでおきながら、文句を言うのは筋違いなんだよ。」

 

これはその通り。

いくら社長が仕事をしていなくても、人として最低であっても、法律を犯していても、従業員が会社に文句を言う筋合いはない。

 

それに文句を言ったところで社長など変わるはずもない。労力の無駄である。

 

従業員にとっては「つべこべ言わず成果を出す」か「嫌ならやめる」の二択しか持たない。

 

うまくいっていない会社ほど、視線が社内に向き、根拠のない噂や社内政治、同調圧力など人間の精神を殺す方向に向かう。つまり、人の道具として作られた会社が人を支配する。それがどうしても許せないから、破壊したい。ただ、それだけだ。 

 

これもそのその通り。

社内の仕事に時間が大きく割かれる職場は危険だと思ったほうが良い。単純に、専門性または経験を身につける時間が減り、「成果を挙げた」という実績を得る時間も減るからだ。 

 

黒岩の最後のレッスン ~Todo型とBeing型の人間~

個人的にはここが一番興味深かった。

 

黒岩の最後のレッスンは、以下の青野の切り出しから始まる。 

「あれから、ずっと考えていました。でも好きなものが何なのか、考えれば考えるほどわからないんです。もちろん、『ある程度好きなもの』は見つけられました。音楽とか映画とか。でも、『どうしてもやりたいこと』まで考えると、見つかりませんでした。」

 

これに対して黒岩の回答─

「君はバカだな。どうしてもやりたいことがあるなら、そもそも今こんなところにいないだろ。重要なのは、どうしても譲れないくらい『好きなこと』など、ほとんどの人間にはない、ということに気付くことなんだよ。いいか?そもそも、君に心から楽しめることなんて必要ないんだ。」

 

「人間には2パターンいる。そして君のような人間には、心から楽しめることなんて必要ないと言っているんだ。むしろ必要なのは、心から楽しめる『状態』なんだ。」

 

2つのパターンは以下の通り。

  • to do(コト)に重きを置く人間 ── 「何をするのか」で物事を考える。明確な夢や目標を持っている。(todo型)
  • to be(状態)に重きを置く人間 ──「どんな人でありたいか」「どんな状態でありたいか」を重視する。(being型)

 

 そして黒岩は言う ──

 「実際のところ、99%の人間が君と同じ、being型なんだ。そして、99%の人間は『心からやりたいこと』という幻想を探し求めて、彷徨うことが多い。なぜなら世の中に溢れている成功哲学は、たった1%しかいないtodo型の人間が書いたものだからだな。彼らは言う。心からやりたいことを持てと。だが、両者は成功するための方法論が違う。だから参考にしても、彷徨うだけだ。」

 

「好きなことがあるということは素晴らしいことだ。だが、ないからといって悲観する必要はまったくない。なぜなら『ある程度やりたいこと』は必ず見つかるからだ。そして、ほとんどの人が該当するbeing型の人間は、それでいいんだ。」

 

「being型の人間は、ある程度の年齢になった時点から、どこまでいっても『心から楽しめること』は見つからない。だが、それでまったく問題ない。それは、何を重視するかという価値観の問題であって、妥協ではないからだ。being型の人間にとって最終的に重要なのは『やりたいこと』より『状態』だからな。」

 

この考えについて私は割とすんなり受け入れられた。私もbeing型だ。

todoのことを考えるとなんか自分が無理しているように感じてしまう。being型の人間が無理してtodo型のように振る舞うのは苦痛なのだ。

 

黒岩は我々being型の人間が好きなことを見つける方法も教えてくれる。

being型の人間が好きなことを見つける方法:

 

(1) 他の人から上手だと言われるが「自分ではピンとこないもの」から探す方法

(2) 普段の仕事の中で「まったくストレスを感じないこと」から探す方法

 

私は友達がそんなに多くないので(1)の方法はあまり役に立たなかった笑 

 

私は物事の構造や仕組み、特徴、性質、因果関係等を理解するのが好きでそこには全くストレスを感じない。また、自分の理解を人に話したり、教えたりすることにも全くストレスを感じない。こうしたことは無理も誤魔化しも抜きに、ごく自然に「好きなんだな」と思える。

 


 

長々と書いたが、自分を確認する良い機会を与えてくれる良書だった。 

転職しようとしている人やキャリアについての考え方の参考にしたい人、「好きなこと」が見つからなくて悩んでる人は是非読んでみて欲しい。