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論理的思考とは何か【本編】

ビジネスマンにとって論理は商売道具です。

 

自分が普段道具の種類や詳細な仕様を把握し、意識的に使い分けることで、錆びついた論理が研ぎ澄まされます。結果として厳密さ、説得力、精密度を持った、切れ味の良い論理を展開できるようになります。

 

前編編では論理における明確な定義とルールについて、つまり論理というツールの詳細な仕様について説明しました。

 

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今回は本編ということで、本題である「論理的な思考とは何か」について説明します。

これは論理というツールの種類について説明です。使うツールの特性を理解し、正しく選択することで、自分の置かれている状況に合わせた論理を使えるようになります。

 

そもそも思考ではなく推論

「論理的思考」という言葉についての「論理的」という部分については前提編である程度下準備が整いました。

ここではもう半分の「思考」という部分について深掘りをしていきます。

 

結論から言うと、論理学においては「いくつかの前提からある結論を導く思考プロセス」を推論(Reasoning)と呼び、思考(Thinking)という言葉と明確に使い分けています。というか、思考という言葉は使いません。

論理学は前提から結論を導くプロセスにしか興味がないからです。

 

他方、我々ビジネスマンに取っても必要なのは推論です。

 

頭の中で展開される推論以外の思考プロセスは重要ではありません。

なぜなら、ビジネスにおいては意思決定と行動が全てであり、意思決定とはある前提にもとづいて「何をやるのか」「なぜやるのか」「いつやるのか」「誰がやるのか」「どのようにやるのか」などの論点ついての結論を出すことだからです。

 

3種類の推論

ということで、推論にフォーカスして説明します。

論理学から以下の3種類の推論方法を紹介します。どれも前提から結論を導く方法です。

 

  • 演繹的推論
  • 帰納的推論
  • 仮説的推論

 

また、これら3つの推論は全て前提編で導入した「命題」によって構成されています。

それぞれ例を用いて説明します。

 

演繹的推論

以下が演繹的推論の例です。

 

[前提1] 全ての鳥は飛ぶ。
[前提2] ハトは鳥である。
-----------------
[結論] ハトは飛ぶ。

 

全ての文章が命題です。さらに最初の二つの命題は「前提」、最後の命題は「結論」になっており、前提から結論を導く推論になっています。

 

演繹的推論(演繹法)では、まず論理包含 p → q 「全ての鳥は飛ぶ。(もしXが鳥なら、Xは飛ぶ)」を持ってきて、さらにもう一つ p を満たす命題、この場合だと「ハトは鳥である。」を立てます。


その後、結論として q 「ハトは飛ぶ」が真であるというように議論を展開する推論方法です。

 

三段論法という言葉を聞いた方がいるかもしれませんが、これは前提が2つ、結論が1つで構成された演繹的推論の特殊ケースです。しかし演繹法においては、前提は二つでなくても構いません。

 

後でも説明しますが、この推論方法は前提となる命題が真であれば、必ず結論が真であることを保証する唯一の推論方法です。


この性質から、数学的な推論ではほとんどのケースで演繹法が使われます。

ちなみに「ほとんど」と言ったのは、数学では「数学的帰納法」という帰納的推論(次で紹介します)の数学的に認められているバージョンを使うこともあるからです。


帰納的推論

演繹法が一般的な前提から具体的な結論を導く推論方法なのに対し、帰納的推論(帰納法)は具体的な前提から、一般的な結論を導く推論方法です。(演繹法の逆バージョンです)

例を見てみましょう。

 

[前提1] ハトは飛ぶ。
...
[前提n] カラスは飛ぶ。
-----------------
[結論] 全ての鳥は飛ぶ。

 

この推論は、ハト, ..., カラスが飛ぶという前提から「全ての鳥は飛ぶ」という結論を導いています。

個別具体的な事象を前提に立て、より一般的な命題を結論に持ってきます。

つまり、帰納法では個別事象の共通要素を見つけて、抽象化しているのです。

 

先ほどの演繹法と違って、前提が全て真であっても、結論が正しいと保証されるとは言えないことがわかります。もしかしたら、飛ばない鳥が発見されるかもしれないからです。

対象を全て調べることが不可能であるという点が帰納法の結論が保証されないことの原因になっています。

 

演繹法の場合は前提が本当に真であるかが厳しく問われます。しかし論理包含 p → q によって建てられた前提が真であれば、p を満たすもの全てにおいて、必ず結論 q が真であることが保証されます。

 

この違いは演繹的推論とその他の推論の決定的な違いとなります。

 

仮説的推論

仮説推論とは、ある観察された事象を前提とし、そこからその現象が起きた原因を結論として立てる推論方法です。

具体的な例を見てみましょう。

 

[前提1] 道路が濡れている。

[前提2] もし雨が降るならば、道路は濡れる。
-------------------------------------
[結論] 雨が降った。(のではないか?)

 

これは直感的にはわかりにくいですが、論理構造を見ると演繹法に似ています。形式的に演繹法との違いを見てみましょう。

 

仮説的推論

[前提1] q

[前提2] p → q

----------------

[結論] p

演繹的推論

[前提1] p

[前提2] p → q

----------------

[結論] q

 

演繹法では、(前提の順番は違いますが)前提1で立てた命題は十分条件の p 「雨が降る」でした。しかし、仮説敵推論では観察した事象として必要条件である q 「道路が濡れている」を前提に置き、 十分条件 p 「雨が降った」を結論として導いています。

 

演繹法の観点から見ると p が真であることは保証されません。よって、仮説的推論も帰納法と同様に厳密性という観点においては演繹法に劣ります。この場合も誰かが道路に水を撒いた可能性があります。

 

しかし仮説的推論の価値は論理的な厳密性ではありません。

 
仮説的推論の強みは、観察された事実の十分条件を導くことです。
これは「この観察された現象は偶然ではなく、背後に何かの法則、または必然性があるのではないか?」と考えるきっかけになります。

 

例えば以下の例のような科学的な発見も、仮説的推論を使っていたのではないかと思われます。(実際にそうだったのかはわかりませんが…)

 

[前提1] リンゴが落ちた
[前提2] もし万有引力が存在するならば、リンゴは落ちる
----------------------------
[結論] 万有引力が存在するのでは?

 

[前提1] 太陽は東から昇り西に沈む
(定説としては太陽が地球の周りを回っているのだけれど...)
[前提2] もし地球が太陽の周りを回っているのであれば、太陽は東から昇り西に沈む

----------------------------

[結論] 地球が太陽の周りを回っているのでは?

 
観察された事実の背後にある必然性に目を向け、仮設を立てることにより

 

[仮説] → [観察された事実]


と言う論理包含が構築されます。
もしこの命題が証明、もしくは十分な仮説検証ができれば、新たな前提を手に入れることができます。


その前提を元により蓋然性の高い推論である演繹法を展開することができるようになり、次の論理を発展させることができるのです。 

 

ビジネスの基本は演繹法

ビジネスには「決めて」「行う」の2つの行為以外にやることはありません。

この2つの行為において論理的推論を行うのは主に意思決定、または意思決定を要求する提案です。

 

意思決定や提案においては演繹法がその他の推論に勝ります。

 

まず、仮説的推論は観測された事実に対する原因や背後にある法則についての推論です。起きた事象がなぜ起きたのか?こうではないか?背後にはこういった法則があるのではないか?というシーンで役立ちます。

 

しかし仮説的推論は、新しいことを始めたり、今やっていることを辞める提案をする際には不向きです。そもそも新しいことなので事象は観測できないからです。

また、今やっていることを辞める際には、観測された事象から「こういったことが原因で成果がでません」という主張をすることはできますが、これでは「じゃあ何すればいいの?」という質問に答えられません。こうした原因についての推論は、提案をする際の前提には使えますが、提案自体にはならないのです。

 

提案をするためには主張をする必要があります。

 

主張する際には様々な前提が真(らしい)と確認した上で、「こうするべき」という結論(主張)の形に仕立て上げます。これはまさに演繹法の論理展開です。

 

また、主張を作り上げる方法として帰納法も使えなくはないですが、「A社もXをやっている」「B社もやっている」, ..., 「N社も...」という論理には説得力がありません。

 

何故ならビジネスにおいてA社, B社, ..., N社、それぞれが自社と異なった前提や制約条件を持っており、それらを無視して語ることに(少なくとも私が関わってきた)意思決定者は納得はしないのです。

 

よって帰納法のこうした論理はあくまで演繹法を補助する役割にしか過ぎません。

 

提案の前に勝負は決まっている

しっかりとした演繹法を展開するためには、自社、顧客、競合、それらを含む市場環境やトレンド、社内の利害関係、マーケティングやセールスの行為そのもの、等々に関する深い理解が求められます。

 これらに対する理解が不足していては、提案のキモになる前提が真であることに、意思決定者の合意が得られないからです。

 

なぜか?我々は自分の理解以上の主張は作れないからです。無理して作っても、理解不足を簡単に見抜かれてただ爆死するだけなのです。

 

ということで、提案とか、ロジカルシンキングなどの前に勝負は決しているのです。

 

私たちはより厳密な態度で演繹法を使うことにより、こうした事情を身をもって理解することができます。自分の理解以上の論理構築ができないことを悟ります。勝負にならないことを悟ります。

 

そのために理解をします。理解とは自分の中に信じられる前提を作ることです。そして確固たる前提は論理の基盤です。

 

理解から生まれる十分な前提が蓄えられた時に初めて、演繹法により強力な提案を展開できるようになります。

 

そうした提案に魂が宿るのです。

 

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